翁様

鼻が高く浮き彫りの眉の面であり、手ぬぐいを頬かぶりして上衣に袴姿、右手に鈴、左手に扇、腰に扇を吊り下げた刀をさしたいでたちである。
鼻水をかけるような仕草をしたり、足をあげたりし、大黒柱の前で禰宜と問答をする。
問答をした後に順の舞を舞って舞って退場となる。


     


 (翁様の問答)
禰宜
そもそも伊勢天照大御神 東は浅間の神社 所の当社は氏大神 七石の御神湯の十分沸き立つ所へ ピクラピクラとして来る者は何者に候


おかしやな おかしやな 昔は花の夜神楽というて夜にしたげなが 今では昼間もするちよ テフテフに事かいて うかしやなおかしやな 大おかしい

禰宜
額を見れば鉢額 目を見れば猿眼 鼻を見れば竜豪鼻 頬を見れば垂りつ他に頬 口を見れば 別相口 首を見れば鳩首 腕を見ればぎっちょう腕 腰を見れば蟻腰 脛を見ればとおの脛 足平を見れば鍬べら足 その様にもあの様にも見苦しき男はあるまいと 万人の者が皆どうどう笑いまするが如何でありまする


イヤ笑わせて褒めまする 褒めて褒めて褒めすえます 額を見れば鉢額 目を見れば猿眼 鼻を見れば竜豪鼻 頬を見れば垂りつ頬 口を見れば別相口 首を見れば鳩首 腕を見ればぎっちょう腕 腰を見れば蟻腰 脛を見ればとおの脛 足平を見れば鍬べら足と言いて イヤその様ににもあの様にも そば粒なりになりよった美しい男が あらばかと 万人の者が褒めて褒めて褒めすえます

禰宜
ハハァなるほど 何とみて褒られたばかりか 三番○翁の事なれば 何か芸能はありませんか


イヤあります あります 三番○翁の事なれば 芸能は事仰仰しき事であります 聞きたければ話して聞して上げましょう

禰宜
イヤ それは承りましょう


山の行立 川の行立 天竺の行立 国の行立 ずらずらりと皆覚えております

禰宜
なるほど それは偉きものだ


まず山もい出来始まり候 須弥山の御山に 断独山の御山に 帰勢禄仙の御山に 比 叡山の御山に 弥栄山の御山に 養気仙の御山に 修気仙の御山とて 七つの山がい 出来始まり候

禰宜
なるほど


まず川もい出来始まり候 一番に秩父鎮村川 二番に木曽川 三番に祟霊山 四番に 品川 五番に権現川 六番に六原川 七番に雛川とて 方々へ流れ始まり候

禰宜
なるほど


まず昔より天竺もい出来始まり候 東天竺に 南天竺に 西天竺に 北天竺に 中天竺 とて 五つの天竺い出来始まり候

禰宜
なるほど


まず昔より国もい出来始まり候 主国 慶旦国 軍如国 真かた国とて 五百代の国が い出来始まり候 イヤ山の行立 河の行立 天竺の行立 国の行立 すらりと皆覚えて おります

禰宜
なるほど それは偉きものだ 何かそればかりで 若き時の打ち上げに往ってみなんだか 練りは練らなんだか 左笛は吹かなんだか


打ち上げにも行ったが 練りも練てみた 左笛も吹いてみた ピチョロピチカ ハハ デンツク デンツク まず打ち上げ往く時に 馬千疋牛千疋に人が千人乗りて プカリプカリと行きたれば 沢の端に美しきよくもなき女が洗濯をして居って ヤレヤレあの女に物を言おうか言うまいか ヤレあの女に物を言おうか言うまいか ヨシうむかいずか 言葉に 者はいらぬまず言うて通れ ヤレそこの女 ヤレそこの牛追い 牛を追うより馬を追うて口をすぎよと言うて 口に悪くやと言うて 口を爪唸らせて その時に別相口になりました

禰宜
なるほど それは情けないこと


馬の中に打ち乗りて プカリプカリと往きたれば 根芋が尻を指し出いてから ゴシゴシと引き抜いて馬の中に打ち乗りて プカリプカリと往きたれば 兎が日向ぼ っこをしておって ハテあの兎を捕らえて行きたれば よき舅殿の所へのよき肴だか ハテあの兎を捕らえたらば よき舅殿の所への肴土産だか ヤレちょうどその時 馬牛に事は欠かないんだか 弓矢に事を欠きて 借弓借矢の事なれば 兎はあの所へちょこちょこ トホトホ射狩らか射た 兎は御殿へ打ちかわる 矢羽は片羽引きむし れる イヤ持って行って料理た程に料理た程に 煮た程に まず婿殿 まず舅殿と返 し返し強い合う内に 兎は臭くなって来て 三番○翁は食ってみませなんだ

禰宜
アレアレ情けない 世話をいたしただけで食うてみませなんだとは なんと外に珍しい物を食うてみませなんだか


ヤレ珍しいものも食うてみました この豊葦原の国の北国の千年で花が咲き 二千年で実がなり三千年で熟んで落ちた梅を三粒食ってみました 太夫殿はくいませなんだか

禰宜
イヤ この方は食うてみません 全体すいものは嫌いだ 何とそれ程で生まれし所は 御知り申さぬか


ヤレ生まれた所も覚えております 何がさて六月の一重二日の事なれば 立臼の根 元に小麦からバラバラバラリと敷いて ゴシゴシゴツトリと生まれました

禰宜
なるほど それはできた覚えの良い男でござる 何を聞いても知らぬ事はないによって もはや時刻も遅いし 四方諸神を拝んで還ったがよろしからん


左様か また幾らでも知っておるが 聞くことがなければ まず還りましょう


翁の順の舞のはやし
一 ありがたや 誠が神行 引いても引かれぬこの榊